新刊出ますよ
『シヌヘの物語』
「COMITIA138」
2021年11月21日(日)11:00~15:00
東京ビッグサイト青海展示場A・Bホールにて
▲上記のイベントで初売りとなる小冊子についてお話します。
表紙はない。目次もない。
コピーしてホチキスで留めただけの不体裁な冊子ですが、150円頂戴します。
いつもは、印刷代(またはコピー代)に数十円載せただけの頒布価格なのですが、
今回ばかりは、コピー代と関係なく労賃として、いただきたいのです。
今回の冊子『シヌヘの物語』は、英文和訳ですが、翻訳に半年以上かかっているのです。
翻訳を中断したのが五月でした。
この物語を、ようやく冊子にまとめて頒布するに至った現在は、十一月の下旬。
『シヌヘの物語』は、翻訳して1冊の冊子にするには、ちょうど手頃な長さの小説でした。
古代エジプト文学のご紹介として、わりと有名なタイトルで、内容も悪くない。
しかし読み始めてすぐに、いろいろ解らないことが出てきました。
「宮廷人が、王の死の知らせを物陰から立ち聞きして、エジプトから国外へ逃亡、遊牧民の元で長い間暮らし、二十年後エジプトに帰還する。」
だいたいこんな話なのですが、お話の肝を理解するには、英語を字義どおりに訳するだけでは意味の通らないことが非常に多かったのです。
シヌヘの物語は、中王国時代初期の時代背景、とくに政治情勢、エジプトの外交事情、そして軍事関連の事情について多少知識がなくては、意味不明なディテールが多々あります。
そこで、私は古代エジプトの軍事関係の事情について徹底的に調べようと思いました。
まず、手持ちの本の中から古代エジプトで軍隊が動いた記録を検索し、詳細な年表を作りました。
次に、『古代エジプトの記録』という一次資料の翻訳を集めた本の索引から、軍事に関係のありそうな言葉のあるページを探しだし、「王朝」「王」「戦争」「事項」などでソートできるよう、エクセルの表にまとめました。
軍事に関係のありそうな言葉とは、「司令官」「歩兵」「戦士」「武器」「遠征」「戦争」「反乱」「砦」「要塞」「海軍」などのワードです。
これらが頻出するページには、必ず古代のエジプト軍が動いた記録が書かれているはずです。
そして、エクセルの表がかなり大きくなり、ソートして面白い結果が出るようになった時点で、多くの軍事関連用語が集中するページの記事を一個一個読んでみました。
けれども、資料本は、けっきょく資料本でしかありません。
まとめて読むと、確かにそれは古代エジプトに起きた出来事の資料の集大成なのですが、記事を拾い読みするだけでは、(とくに一次資料である古代エジプト文字の英語訳の部分は)まったく意味を成さないのです。
それらの記事は、いわば断片であって、そこに資料本を編纂した著者の註釈や解釈、他の研究者たちの膨大な研究報告や資料の積み重ねがあってこそ、一般人が読むに耐える読み物になるのです。
そこで、問題集の答えを先に見てから問題を解く学生のように後ろめたい気がしたのですが、イアン・ショウ氏の『古代エジプトの戦争』という本をつまみ読みしました。
私は、その本のごく一部ですが、読んでみて絶望しました。
古代エジプトの戦争に関しては、未だ研究が不十分なことが多い。
というより、ほとんど知られていないことのほうが多い。
と、イアン・ショウ氏は書いています。
なぜなら、戦争の後は焼け野原になり、戦勝国が略奪して、戦争に関する資料は非常に残りにくくなり、古いものほど上に畑や建物が建って発見できなくなるからです。
そのことは、私自身が古代エジプトの軍事に関して作ったエクセルの表から抽出した幾つもの資料が、非常に断片的なものばかりだった印象と、よく合致しました。
そもそも明快にまとまった資料が少ないという(カーメスの石碑、メギッドの戦い、カデシュの戦い、メディネット・ハブなどは希有な例外として)古代エジプトの軍事事情です。
『古代エジプトの戦争』一冊を読み通してもいない素人が、古代エジプトの戦争に関して何事かを語ろうなどとは、どだい無理な話。
そんなこんなで断片的な知識を蓄積しただけで月日は過ぎました。
そんなわけで、先の九月に開催された「COMITIA137」は、新刊本なしの参加となりました。
けれども、その九月が終わった時点で、あらためて『シヌヘの物語』に向かってみると、意外や意外、大した困難もなく読み通せたのです。
そんな短期間に私の英語力が上がるわけがないので、これは知識量の違いだと思います。
いろいろエジプトの軍事に関して調べて、知識として蓄積した様々な断片が頭の片隅にあったお陰で『シヌヘの物語』が簡単に読み倒せたのです。
『シヌヘの物語』のシヌヘについて、これから読もうという方に、お話したいことはいろいろあります。
たとえば、「シヌヘは一体全体何故逃亡したのか」…
お話の中でも曖昧にされている、その逃亡の理由。
それは、古代エジプトに詳しい人なら、いろいろ考えつくでしょう。
ですから、私はこれ以上何も言わないことにします。
「COMITIA138」
2021年11月21日(日)11:00~15:00
東京ビッグサイト青海展示場A・Bホールにて
▲上記のイベントで初売りとなる小冊子についてお話します。
表紙はない。目次もない。
コピーしてホチキスで留めただけの不体裁な冊子ですが、150円頂戴します。
いつもは、印刷代(またはコピー代)に数十円載せただけの頒布価格なのですが、
今回ばかりは、コピー代と関係なく労賃として、いただきたいのです。
今回の冊子『シヌヘの物語』は、英文和訳ですが、翻訳に半年以上かかっているのです。
翻訳を中断したのが五月でした。
この物語を、ようやく冊子にまとめて頒布するに至った現在は、十一月の下旬。
『シヌヘの物語』は、翻訳して1冊の冊子にするには、ちょうど手頃な長さの小説でした。
古代エジプト文学のご紹介として、わりと有名なタイトルで、内容も悪くない。
しかし読み始めてすぐに、いろいろ解らないことが出てきました。
「宮廷人が、王の死の知らせを物陰から立ち聞きして、エジプトから国外へ逃亡、遊牧民の元で長い間暮らし、二十年後エジプトに帰還する。」
だいたいこんな話なのですが、お話の肝を理解するには、英語を字義どおりに訳するだけでは意味の通らないことが非常に多かったのです。
シヌヘの物語は、中王国時代初期の時代背景、とくに政治情勢、エジプトの外交事情、そして軍事関連の事情について多少知識がなくては、意味不明なディテールが多々あります。
そこで、私は古代エジプトの軍事関係の事情について徹底的に調べようと思いました。
まず、手持ちの本の中から古代エジプトで軍隊が動いた記録を検索し、詳細な年表を作りました。
次に、『古代エジプトの記録』という一次資料の翻訳を集めた本の索引から、軍事に関係のありそうな言葉のあるページを探しだし、「王朝」「王」「戦争」「事項」などでソートできるよう、エクセルの表にまとめました。
軍事に関係のありそうな言葉とは、「司令官」「歩兵」「戦士」「武器」「遠征」「戦争」「反乱」「砦」「要塞」「海軍」などのワードです。
これらが頻出するページには、必ず古代のエジプト軍が動いた記録が書かれているはずです。
そして、エクセルの表がかなり大きくなり、ソートして面白い結果が出るようになった時点で、多くの軍事関連用語が集中するページの記事を一個一個読んでみました。
けれども、資料本は、けっきょく資料本でしかありません。
まとめて読むと、確かにそれは古代エジプトに起きた出来事の資料の集大成なのですが、記事を拾い読みするだけでは、(とくに一次資料である古代エジプト文字の英語訳の部分は)まったく意味を成さないのです。
それらの記事は、いわば断片であって、そこに資料本を編纂した著者の註釈や解釈、他の研究者たちの膨大な研究報告や資料の積み重ねがあってこそ、一般人が読むに耐える読み物になるのです。
そこで、問題集の答えを先に見てから問題を解く学生のように後ろめたい気がしたのですが、イアン・ショウ氏の『古代エジプトの戦争』という本をつまみ読みしました。
私は、その本のごく一部ですが、読んでみて絶望しました。
古代エジプトの戦争に関しては、未だ研究が不十分なことが多い。
というより、ほとんど知られていないことのほうが多い。
と、イアン・ショウ氏は書いています。
なぜなら、戦争の後は焼け野原になり、戦勝国が略奪して、戦争に関する資料は非常に残りにくくなり、古いものほど上に畑や建物が建って発見できなくなるからです。
そのことは、私自身が古代エジプトの軍事に関して作ったエクセルの表から抽出した幾つもの資料が、非常に断片的なものばかりだった印象と、よく合致しました。
そもそも明快にまとまった資料が少ないという(カーメスの石碑、メギッドの戦い、カデシュの戦い、メディネット・ハブなどは希有な例外として)古代エジプトの軍事事情です。
『古代エジプトの戦争』一冊を読み通してもいない素人が、古代エジプトの戦争に関して何事かを語ろうなどとは、どだい無理な話。
そんなこんなで断片的な知識を蓄積しただけで月日は過ぎました。
そんなわけで、先の九月に開催された「COMITIA137」は、新刊本なしの参加となりました。
けれども、その九月が終わった時点で、あらためて『シヌヘの物語』に向かってみると、意外や意外、大した困難もなく読み通せたのです。
そんな短期間に私の英語力が上がるわけがないので、これは知識量の違いだと思います。
いろいろエジプトの軍事に関して調べて、知識として蓄積した様々な断片が頭の片隅にあったお陰で『シヌヘの物語』が簡単に読み倒せたのです。
『シヌヘの物語』のシヌヘについて、これから読もうという方に、お話したいことはいろいろあります。
たとえば、「シヌヘは一体全体何故逃亡したのか」…
お話の中でも曖昧にされている、その逃亡の理由。
それは、古代エジプトに詳しい人なら、いろいろ考えつくでしょう。
ですから、私はこれ以上何も言わないことにします。
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